• 2006.04.03 Monday
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新幹線

 あれは結婚する前の春だった。出張で名古屋から東京
行き新幹線に乗った。指定席だった。席は2列席の窓側
E席。隣のD席は空きだった。
「誰もこないといいな・・・。」
そう思ってた。

 上着を壁に掛け発車を待っている時、見覚えのある顔が
こちらに向かって車内を歩いて来る事に気付いた。 

 それは高校時代に通学電車で知り合い…最後は嫌な別れ
方をした元彼女。少し綺麗になったけど…間違い無い。
「顔は合わせたくない。」窓の外に顔を向
け、寝たふり。……そのままじっとしていると、隣席に
誰かが座った。


「!」


懐かしい香りが…そんな気がした…。

その頃は連日の深夜残業で、疲れが溜まっていたので
本当に眠ってしまったらしい。

 目が覚めると東京駅だった。もう車内に人影はまばら。
その時窓の外のホームを歩く彼女を見た。

 微笑む彼女。目線が合った。 …ような気がした。

 その時、壁に掛けてあったはずの上着が自分の体に掛
けられている事に気付いた。

 「…!」

 上着をつかむと彼女を追いかけ走った。 

気付いてない振りをしてごめん、と言いたくて。





京浜東北線

すでに彼女は人込みの中。今は8時30分。人の波に紛
れもう判らない。
 ここは東京駅。世界最大級の駅。見失った一人を見つ
ける事は難しい。実際時間的余裕が無い。あきらめる。
京浜東北線大宮行き普通に乗る。この線は田端まで山
手線と並走する複々線で東京から次の神田までは隣の電
車が近く、手が届
く程。
 並んで走る山手線の列車を見た。


「!」



何とそこには・・・


 何と、並んで走る山手線の窓の向こうに有るのは彼女
の後姿。手を伸ばせば届きそうな所に彼女が居る。間に
ある二枚のガラスをぶち割りたい・・・
 山手線に乗り移りたい。しかしわずかに向こうが先行
していて、こちらが駅に着いた瞬間に向こうは扉を閉め
発車してしまう。その繰り返し。
 あぁ田瑞まであと5分位。それまでに追い付いてくれ。
 それはまず無い。向こうに何かアクシデントでも無い
限り差が縮まる事の無い電車の追いかけっこ。


 田瑞まで行ってだめなら次の山手線→3分後で後を追い
降りた駅で追う…いやだめだ。どこで降りるか判らない。
わずかに差が縮まりつつ有る今は鶯谷。
 こちらが扉開の一瞬後に向こうが扉閉。このまま行けば
田瑞で何とか…まずい事に西日暮里でこちらの発車が遅れ
る。駆込み乗車。 何と言う事だ。次は
田瑞だ。


田端

 田端駅に停車後扉開と同時に降りた。が山手線は発車し
た後。



「…」



脱力感と共に汗が流れた。ポケットからハンカチを出し、
額に当てた。次の電車で行こう。
赤羽へ。 

 その時後ろから肩を叩かれ、振り向いた。 
 

 振り向くとそこには若い女性がいた。残念ながら彼女
ではない。

 紙片を持っていて、落とされましたよ、と。身に覚え
の無い紙切れ。俺とは関係無い。が、親切のみ頂き。礼
を言い、紙片を受け取る。それを捨てようとし
たが次の電車がすぐに来た。(3-5分間隔)それに乗る。

 今日は北区赤羽の東京支店で営業車を借り埼玉の川口
の客先で打合せ。
 その途中でライターを出そうとポケットを探っていた
ら、あの紙が絡んで出て来て床に落ちた。拾おうとした
俺はその紙片に目が釘付けになり動きが止ま
った。

「!」

打合せ

 御客からどうかしたのか、気分でも?と聞かれ我に
返った。
 紙には「夕方必ず電話して!待ってる。048-****」
と埼玉系の電話番号があり、そして最後に名前が。そ
れは彼女の名前だった。
 それからは打合せも気はそぞろ。早く終わらせたい
一心で、直感即決、素早く打合せを進めた。面白い事
に客先からは決断の非常に早い技術者との評価を
得た(後で聞いた。)
 早々に終わらせ、支店へ向かう。途中の公衆電話で
寄り道しながらだったが、通じない。支店で車を返し
すぐ帰るというと、支店長が待てと言う。

宴会
 何でも、今日は名古屋から俺が来てると言うことで
御食事会を開くから、参加しろとの事。それでは断れ
ない。
 覚悟して22時最終名古屋行きの切符をとった。
 駅前の和食料理屋。 東京支店と言っても
十人である。そのほぼ全員が出てくれた。今後につい
ておおいに盛り上がり、俺も酔いが回り、なぜだか万
歳をして9時頃お開き。
 皆と別れ一人赤羽駅へ行き、公衆電話を見つけ、受
話器を取った。

るるるる……るるるる……

最終列車

20回コールしたが出ない。最終列車の切符は有るし、
あきらめて名古屋へ帰る事にし、京浜東北線上りに乗る。
 その車内で今日一日を振り返る。…彼女は朝の列車
内で二時間近く、何してたんだろ?


 東京駅には最終の発車15分前に着いた。新幹線乗換
改札の前に空いている公衆電話があった。(当時携帯は
広くは普及してなく、駅のあちこちに公衆電話が有った。
そして大抵の場合は数人の行列が出来てた。)

 ラッキーと思い受話器を取る。 番号はもう暗記してる。

 るるるるる…るるるるる…る

 がちゃ

 「!」 

乗車される方はお急ぎ下さい
 受話器から彼女の声が聞こえる。埼玉の大宮にいるらしい。
 構内放送が名古屋行き最終の客に乗車を促している。
 今日は金曜日。会いたい。今からあいたい!…そう。今から!
 最終電車は俺の席を空けて待っている。切符は乗らなければただ
の紙切れ。でも、もうどうでもいい。
 又関東に来たら会おうねと言う彼女。何だか急に早口になって、
話をまとめようといるのは名古屋行きの最終時刻を知っているのだ
ろう。で、いきなり今から会おうと言った。

 え?…

駆け込み乗車は危険です。
 受話器を置いた。時刻は最終列車の発車5分前。切符は後でも又
買える。今日は後からは買えない。幾ら大金を出しても。
 会いに行こう 後の
事は後で考える。 さっき来た通路を引き返した。走った。

下り列車に飛び乗った。

 朝と同じ京浜東北線大宮行きに。

〜〜〜終わり〜〜〜


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